ルパンと銭形警部

 本調査の主担当者MITのNicholas Makris教授は通称ニックだが、我が家ではその風貌から妖怪どーしたろーかしゃん*と呼んでいる。長めの髪を振り乱し、額は上までつるつるで声がでかい。性格はどーしたろーかしゃんのような指示待ち妖怪では全くなく、おもいついたことをバンバン言う指示する妖怪である。人の話をきかない。なにか考え出すと徹底的で、できることはなんでもやろうとする。まったく猪突猛進でつきあいにくい奴だと思っていた。
 海の調査では、海底ケーブルやら国境やらいろいろ制限がある。とくに日本の海では、漁船が多いところも避けた方がよい。そうすると許可された区域のなかでも行けるところはさらに狭まる。ニックが乗船してきてから2日間は、ひたすらバトルであった。

「そこは今いけない。それに時間がかかりすぎる」

「この調査に一日いくらかかってるか知ってるだろ。スポンサーが許さないぞ」

「ケーブルルートを外してやるなら、ここしかないんじゃないか」

「それじゃ、いいデータはとれない!」

「いまは漁船がいっぱいいるから、そこはやめといたほうがいい」

「お前は警察官だな。それは置いといて科学者としてどう思うか明日までに教えてくれ」

 こういう怒鳴りあいを2日も続けていると、ニックもだんだん日本の事情を呑み込めてきた。データも取れはじめ、調査終了までのおおまかな動き方で双方納得したあとは、なんとなく一緒に食事をするようになった。

 このごろは映画の話がちらほらでる。ルパン三世の映画「カリオストロの城」はニックのお気に入りだ。とくにその最後の場面で、ルパンを追う銭形警部がクラリスに言うセリフ「奴はとんでもないものを盗んでいきました。 あなたの心です」をしっかり覚えていた。

「最初はたたかったけど、トム(=私)はよい警官だ。同じ目的を共有している。俺がルパンならトムは銭形警部だ。仕事が終わるまで逮捕するなよ」となかなかしゃれたことを言う。

 調査も残すところあと一週間。データを見ながら、どーしてやろうか、こうしてやろうか、と議論する相手としては最高だ。

*NHKのコント番組「LIFE!~人生に捧げるコント~」でムロツヨシさんが演じたキャラクター

2026.7.25

船の上でも管理職?

 海は広いが、どこでも勝手に調査してよいというわけではない。たとえば、他国の排他的経済水域で許可なく調査するのはまずい。国際問題になる。今回のように長~いケーブルを引き回すときは海底ケーブルも要注意だ。万が一ひっかかって切れたりしたらたいへんなことになる。佐世保からの連絡によれば、ある海域は米軍の演習があり、一定の時間内は立ち入り禁止である。調査海域は大きく2か所にわかれ120kmほど離れているので、頻繁に行ったり来たりしては時間の無駄だ。それに加えて海が荒れれば調査はできないし、機材に不具合があれば修理や調整が必要になる。海の調査は思ったとおりにはいかない。

 一番大きな研究室にはBoard of Lies(嘘の掲示板)というホワイトボードがある。船からの日々の連絡や注意が書いてある。

「これ、ほんとうに信用していいの?」

「海の調査は予定通りいかないでしょ。だから嘘になるかもしれない掲示板なんだけど、信用してよいです」

 この調査の日米間の連絡を仕切ってきた行きがかり上、自分が航海計画の調整役を引き受けることになった。科学者はもちろんやりたいことを提案してくるけれど、今は無理とか、時間がかかりすぎるとか、優先順位が違うとか、天気予報をにらみながら日々の計画を決めている。科学者の言うこともよくわかるし、かといってできないことはできないといわないといけない。

 なんかこれって、連絡と調整にあけくれる中間管理職の仕事ではなかろうか。おかしいな。管理職を辞めて現場に戻ったはずなのに。。。

2026.7.20

久々のフィールドワーク

 ほんとうに久々のフィールドワークだ。なにしろ4年半も管理職をやっていたので、ほとんど海に出る機会もなかった。3週間ずっと船暮らしなので、いったいどうなるんだろう、と心配の種がいくつかあった。

 まずは船酔いだ。これまで小さな船ばかりのっていたので、大きな船のぐぅーんという揺れには免疫がない。食事も不安である。乗るのはアメリカの船なのでハンバーガーとステーキばっかりですぐ飽きてしまうかもしれない。それに7月ともなれば蒸し暑い。不快で、かなり消耗するのではないか。

 台風9号が接近する中、佐世保から出港したトーマスGトンプソン号は東シナ海にでると徐々にうねりに揉まれはじめた。夜の漂泊中に南からまともに波を受けたときはさすがに机の上のものが滑り落ちたが、波高2mくらいならたいした揺れは感じない。乗り慣れている漁船ならこのくらいでも上下左右に振り回される。さすが三千トン級。不思議なことに、そんな船内でパソコンの画面を見続けても船酔いはしなかった。

 この2日間の夕食で出てきたのは、鶏もも焼き、豆腐のステーキ、ラザニア、グリーンカレーにタイ風焼きそばのパッタイで、昨日はみそ汁もあった。ブロッコリやアスパラガスの焼き物、新鮮なサラダとフルーツも選べる。コーヒーだけでなく、各種ティーバックやお菓子も常備してある。佐世保で仕入れたのであろう、歌舞伎揚げもおいてあった。司厨部のみなさんの気遣いがすばらしい。

 問題は気温だった。パソコンやモニタがずらりと並んでいる研究室は、冷房が効きすぎて寒い。30分もいると体が芯まで冷えてくる。一枚だけもってきた長袖のフリースが手放せない。居室もがんがん冷えるので、冷房の吹き出し口をタオルで半分塞いでしまった。寝るときはトレーナーを着てちょうどよい。

 調査はまだこれから。長袖さえあれば、米国船での暮らしはまったく問題なさそうだ。

2026/7/12

研究室をジャングルにしたい

 海を仕事にしているけれど、ほんとうは森の中で暮らしたい。四季折々の鳥の声を聴きながら、萌える若葉や夕日に映える紅葉、雪に埋もれた森に囲まれたい。とずっと思っていた。
 しかしなかなか実現しないので、せめて研究室だけでも緑あふれる癒しの空間にしようと、いまの職場に大きな鉢を2つもってきた。ひとつはシマトネリコ。よくホームセンターで売っている常緑広葉樹だ。いでたちが落葉樹っぽいので風情があり、庭にも街路にもよく使われている。もう一つはポトスという観葉植物で、蔦を絡ませる支柱があればどんどん伸びる。
 持ってきて一か月ほどは順調だったが、どちらもだんだん萎びてきた。一日中日が当たらないビルの谷間なので予想しなかったわけではないけれど、いかにも調子が悪い。シマトネリコは葉がどんどん落ち始めたので自宅のベランダに避難させたが、あえなく枯れてしまった。弱々しい蔦を間引いたポトスはちんちくりんで、いっかな伸びる気配がない。

 シャングルのようにしたいのに、これでは砂漠のオアシスにもならない。

 そこで登場したのがテーブルヤシである。もともと百円ショップで手のひらに乗るような小さな鉢を買ってきたのだが、数年かけてじわじわと伸びてきた。自宅の居間でだんだん邪魔者扱いされるようになったので、お引越しとあいなった。
 このテーブルヤシが、研究室の環境にぴったり合った。真ん中からすっと黄緑色の棒のような芽が伸びてくる。だんだん緑が濃くなるとパッと開いて葉が展開する。これを繰り返しながら上に広がっていく。もってきたときよりもう50cmくらい伸びただろうか。このままいけばあと2-3年で天井近くまで達し、繁ったヤシの下でコンビニのココナッツジュースでものみながらアロハシャツを着て研究にいそしめるのではないか。
 こうした妄想に浸りながら目を閉じると、緑あふれる理想の研究室が瞼の裏にあらわれる。実に素晴らしい。

2026/7/6

趣味はカヤック

 趣味といえるようなものもなく、なにか始めても長続きしなかったけれど、カヤックだけはもう16年も続いている。激流を下るようなやつではなく、穏やかな水面をまったりと漕いでばかり。どこでも好きなところにいける水の上の自転車のような乗り物だ。

山中湖でのカヤック風景。富士山に一番近い湖です。映っているのは膨らますタイプのカヤックでパックラフトともいいます。重さ2.3kgなので、ひょいとどこでももっていけるのが良い。

2026/6/28

ホームページ開きました

2026年6月27日に、このホームページをオープンしました。以前に比べて、作り方がずいぶん進歩してました。わからないことはチャッピーにきいてます。この手のことは、ホント頼りになる。